木の芽時

あれから長い間、母の言動は少し内容が幼稚であることを除けば安定していたように思う。だけど年が明け暖かくなるにつれて、母もまたおかしくなっていった。

 

おかしくなりはじめた最初の頃は「もしかして『木の芽時』というやつではないのかしら?」と思うようになった。去年ほどあからさまに話のリピートも出ておらず、ただとにかく話をしていてもメールでも「しあわせ」というフレーズがやたらと飛び出す。それがまるで躁病のようだと思ったのがきっかけ。

 

春に起こる気分障害を「木の芽時」と呼ぶけれど、母の症状はそれに当てはまるような気がした。去年も夏頃になると会話が落ち着くようになり、秋になると自ら「本が読みたい」と図書館通いするようになった。(ADHDの子どもみたいだったあの母が!)認知症なら季節に関係なく進行するだろうから、もしかすると躁病なのではないかと思うようになった。

 

本当は然るべき場所で然るべき検査を受けてもらいたいのだけれど、母はとにかく頑なに「イヤ!」と幼児のように甘えた(頑固な老婆に甘えられてもこれっぽっちも情けは感じません!)つまり憎たらしい態度で拒否する。ネットで調べてみると「躁病の症状が強く出ている時期に病院へ連れていくのは困難」という意見が多い。何しろ躁病とは「世界で自分が一番賢い」と思い込んでしまう病気なのだ。しかも本人は「楽しくて仕方がない」のだから、その気分をぶちこわすような事をなんでわざわざせにゃならんのだ!という捉え方しかできないようだ。

 

母が「躁病かもしれない」と思う根拠は

  • とにかく毎日が楽しくて仕方がない様子。母特有の「悲劇のヒロイン」病も「ヒロインになるのが楽しいから」やっているのだと気付いた。もう二度とその話にはのらない。
  • 家族に対してものすごく高慢ちきな態度をとる。間違いを指摘すると、去年も言っていた「そういうことにしといたろか~」が口をついて出るようになった。自らの非は絶対に認めようとせず「話が支離滅裂で意味がわからないよ」と言うと「電話はあかんね~」と電話のせいにする始末。
  • 話をしていても、自分に都合の良い受け取り方しかできない。母がおかしくなると昔勤めていた○○商事の話をしはじめるので、嫌味のつもりで「また○○商事の話が出たでえ~」と言うと「今回のコールは私無理よ」と言い始めた。意味を問いただすと、その○○商事時代の同僚が年賀状に「同窓会でもしたいね」と書いていたのを「自分への熱烈コール」だと思い込んでいたようだ。さすがに呆れた。
  • 外部の刺激に過剰に反応する。電話をしていて少し空が曇ってきただけで「いやっ!!なにこれ!!どうなってるの!!(ありえないくらいの大声)」と言い出したり、テレビで飛行機が墜落した映像を見ただけで「テロや!えらいこっちゃ!(大声)」とトンチンカンな反応を示す。
  • 先の件にも重なるけれど、とにかく早合点というか「思考がポンポン飛ぶ」状態のように見える。話のリピートも日増しにひどくなっているけれど、それも「さっき話したかどうか考える」という作業をすっ飛ばしているからなのではないか。思考を整理したり抑制したりする能力が失われてしまっているように見える。

去年よりもひどくなっているのは、やたらとメールや電話をかけてくること。その内容も支離滅裂で、完全に「キチガイメール」なのが厄介だ。そして何より家族が苦しめられているのが「自分は間違っていない」と激しく主張してくること。何から何まで間違っているのは自分の方なのに!

 

母が話をリピートするので、私も「もう聞いたよ」と指摘すると「ハハハ!また出たでえ~あんたのお得意の『もう聞いたよ』か~」とこちらをバカにしきった態度でそう言ったのだ。この事と母が「生き金」という言葉を使った時に、私が普段聞きなれない言葉(そもそも、そんな言葉を使うのは高齢者だけのような気が・・・)なので聴き返すと「い・き・が・ね・よ!リピートアフターミー!」と教師気取りで鼻息荒げる母が本当に気持ちが悪くてゾッとした。

 

母はこの春になってやたらと「娘と母は一心同体」「心がツーカー」と「仲良し親子」を主張したがるのだけれど、そもそも私と母は相性の悪い親子だった。もし同級生だったとしても絶対に友達にならないだろう。

 

私も今回はさすがにブチ切れて「精神科へ行け!」と電話口で怒鳴りつけると、翌日にあまりにも腹が立ったのか「病院に行きます。もう宅急便とか送ってくれなくて良いです。さようなら!」という同じ内容のメールが3通(3分おきくらいに送信されている)届き、その数時間後には何の用事か電話をかけてきたらしい。(私は電話に出なかったけど着信記録が残っていた)

 

しかし、夕方になるとまたご機嫌なキチガイメールが届いた。どうやら自分が腹を立てていたことも忘れているらしい。そして「病院に行きます」は案の定嘘だという事もすぐに判明した。